ABS樹脂

ABS樹脂とはアクリロニトロル (Acrylonitrile)、ブタジエン (Butadiene)、ポリスチレン(polyStyrene)を結合させた化合物です。1954年、米国のUS.Rubber社が製品化に成功しました。
プラスチック材料のポリスチレンは光沢性、加工性、安定性に優れていましたが、弾力がなく、衝撃に弱いという欠点がありました。そこでゴムのような弾力特性をもつブタジエンを加え、さらに耐熱性、機械的強度、耐油性に富んだアクリロニトリルを結合させた素材がABS樹脂です。
プラスチックにはFRP(繊維強化プラスチック)という家屋の屋根材、バスタブ、電子部品など、広範囲に使用されている素材がありますが、ABS樹脂も、これに勝るとも劣らない横綱です。用途は自動車や家電製品、住宅用建材、家庭用品など様々で上げれば切がありません。
1.ABS樹脂の特徴
ABS樹脂は身の回りに限りなくあります。つまり、工業的には非常に汎用性の高い素材です。特徴の一つですが、熱を加えて軟化させることができるので、複雑な成形が容易にできます。パソコンの外部筐体(きょうたい)やキーボードのボタンなどもABS樹脂です。さらに、成形後の表面が非常にきれいで光沢があります。デザイン性が大切な家電商品には最適な素材です。
もう一つの大きな特徴は、原材料の配合の比率を工夫したり、新たな素材を加えることで、突出した特徴を持たせることもできます。例えば、ガラス繊維や炭素繊維を入れることで、鋼(はがね)のように硬くて丈夫なABS樹脂ができます。それでは、一般的にABS樹脂の特徴は次のようになります。
<利点>
・熱流動性があり、薄い形の成形品(形の薄いもの)を作ることができる
・耐熱温度は70℃~100℃で、日常の一般使用に十分である
・加工性、耐衝撃性、曲げ疲労性など機械的特性のバランスに優れる
・原料の配合比率を調整して、ABS樹脂の特徴を変えることができる
・表面の美観に優れ、印刷やメッキができる
<欠点>
・耐候性はあまり良くない。長時間直射日光を当て続けると劣化する
・耐熱性の素材ではあるが、可燃性でもある
・耐薬品性に弱く、アルコール類、鉱物油、強酸、強アルカリなどの付着により劣化
2.主な用途
ABS樹脂が使われている範囲は非常に幅広く、自動車や家電製品、住宅用建材、家庭用品など様々です。現代の工業製品はABS樹脂が無くては語れないほどです。身近なものでは、ノートパソコンやプリンター、洗濯機に冷蔵庫、テレビ、カーオーディオ、カーナビ、旅行用のキャリーカート、建築の外装などなど。とりわけ家電製品やIT製品などのボディのほとんどはABS樹脂で作られています。
<まとめ>
私たちは多様性の時代に生きています。周囲にあるモノで我慢するのではなく、自己実現を求める世界観です。それは、より性能の優れたモノ、より高級感のあるモノへの羨望(せんぼう)なのでしょうか。
さて、これまでABS樹脂について書いてきましたが、筆者が特に注目したものは三つです。一つ目は熱で樹脂を軟化させる特徴です。専門的には熱可塑性(ねつかそせい)とも言います。この特徴を生かせば、造形物を作る3Dプリンターの射出材料になる得ることです。そして、この技術はすごい勢いで進化発展しています。一般のプリンターのインクの代わりです。熱で柔らかくした樹脂をデータ通りの造形物に仕上げていくのです。
二つ目はABS樹脂を構成する原材料の配合を工夫したり、ガラス繊維や炭素繊維などの素材を混入させることで、プラスチックでも引っ張り強度の高い、粘りのある素材ができます。プラスチックの軽いという性質と融合すれば、建物や機械の力のかかる構造物に広い用途があります。
最後の三つ目はプラスチックでありながらメッキができることです。ABS樹脂の表面から、原材料の一つになつているブタジエンを剥離(はくり)します。剥離に必要なエッチング技術は昔からある技術です。ブタジエンが剥(は)がれ、穴の空いたところにメッキ処理をするのです。ABS樹脂は少々、耐薬品性に弱いところがあります。メッキをすることで、製品の劣化を防ぐことができます。代表的なものに、車の前面に使われるフロントグリルなどがあります。